評価の実務

査定書を何通も集めるほど、話し合いがこじれる理由

「たくさん査定を取れば正確になる」は財産分与では逆効果になることがあります。査定書が増えるほど都合のよい数字の選び合いになるメカニズムと、抜け出し方を解説します。

著者:吉田 健人·読了 約3
査定書を何通も集めるほど、話し合いがこじれる理由

財産分与の準備として、複数の仲介会社に査定を依頼する方は多くいらっしゃいます。売却の場面では合理的な行動です。しかし財産分与の交渉の場面では、査定書を集めれば集めるほど話がこじれる、という逆説が起こりがちです。

査定額はなぜ会社ごとに違うのか

仲介会社の査定は、成約見込みの価格に営業上の判断を重ねたものです。媒介契約を取りたい会社は高めの数字を出しやすく、確実に売り切る自信のある価格を出す会社は低めになります。同じ物件で500万円の開きが出ることも珍しくありません。

この開きは、売却の場面では「参考情報の幅」として機能します。しかし財産分与の交渉では、意味が変わります。

「幅」が「武器」に変わる

家を渡して代償金を受け取る側は、高い査定書を選んで主張したくなります。家を取得して代償金を支払う側は、低い査定書を選びたくなります。査定書が6通あれば、双方が自分に有利な数字を選び、残りは無視する。

こうなると、査定書は価格を知るための資料ではなく、交渉の武器になります。相手が出してきた査定書は「操作された数字」に見え、資料が増えるほど不信感が積み上がる。数字の議論のはずが、信頼の議論にすり替わっていきます。

平均を取っても解決しない

「では全部の平均を取ろう」という提案も、実はあまり筋がよくありません。各査定の前提(想定した販売期間、リフォームの扱い、参照した事例)がバラバラなまま平均しても、意味のある数字にはならないからです。偏った査定が1通混ざっているだけで平均は動きます。

抜け出すには「検証できる1つの数字」

必要なのは、数字の数を増やすことではなく、根拠を検証できる数字を1つ置くことです。不動産鑑定士の評価書は、採用した事例・補正の過程・適用した手法がすべて書面に記載されるため、「どこに異論があるのか」を特定できます。

合意できるかどうかはその先の話ですが、少なくとも水掛け論からは抜け出せます。すでに査定書が何通も積み上がって膠着している場合は、それらの査定書の検証から始めることもできます。どの査定が実勢に近いのかの見立てをつけるだけでも、話し合いの整理になります。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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